大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

広島高等裁判所松江支部 昭和50年(ネ)33号 判決

主文

一  原判決を次のとおり変更する。

(一)  控訴人は被控訴人に対し金一二〇万円及びこれに対する昭和四二年六月一日から支払ずみまで年一割二分の割合による金員を支払え。

(二)  被控訴人のその余の請求を棄却する。

二  訴訟費用は第一、二審を通じてこれを一〇分し、その一を被控訴人の、その余を控訴人の各負担とする。

事実

一  当事者の求める裁判

(一)  控訴人

「原判決を取り消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決

(二)  被控訴人

「本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人の負担とする。」との判決

二  当事者双方の主張

(一)  被控訴人の請求原因

1  訴外池田久仁雄は、昭和四一年五月三〇日控訴人に対し一四〇万円を利息・年一割二分、弁済期・昭和四二年五月三一日の約定で貸し付けた。

2  池田は、昭和四二年四月二六日右債権を被控訴人に譲渡し、その頃到達の書面でその旨を控訴人に通知した。

3  控訴人は利息を支払つただけでその余の支払をしないので、被控訴人は控訴人に対し右一四〇万円とこれに対する弁済期の翌日である同年六月一日から支払ずみまで約定利率相当の年一割二分の割合による遅延損害金の支払を求める。

(二)  請求原因に対する控訴人の答弁

請求原因事実のうち、債権譲渡の点は不知、その余の事実を認める。

(三)  控訴人の抗弁

1  控訴人は、昭和二九年一一月頃から訴外表稔を雇用していたところ、同人は別紙横領金額一覧表(以下「別表」という。)(一)ないし(八)記載のとおり控訴人の金員を横領した。

2  池田は、昭和四一年九月二〇日控訴人から表の横領の事実及び判明した横領金額が三〇〇万円を超え、今後の調査によつてはなお増えることが予想されることを告げられたが、表の横領については告訴しないよう懇願するとともに、控訴人の蒙つた損害については賠償することを約し、控訴人との間で表に関する身元保証契約を締結した。従つて、控訴人は池田に対し、表の横領によつて蒙つた損害につき、身元保証契約に基づき、あるいは重畳的債務引受ないし連帯保証契約に基づいて賠償請求権を有する。

3  控訴人は、被控訴人に対し昭和四二年五月一日頃到達の書面で本件貸金債務の期限の利益を同年四月二〇日以降について放棄したうえ、右損害賠償債権と本件貸金債務とを対当額で相殺する旨の意思表示をした。

(四)  抗弁に対する被控訴人の答弁

抗弁事実のうち、控訴人が昭和二九年一一月頃から表を雇用していたところ、同人が別表(一)ないし(七)の被控訴人の答弁欄に認める旨を記載した金員を横領したこと、池田が昭和四一年九月二〇日控訴人と身元保証契約を締結したこと、被控訴人主張の相殺の意思表示がなされたことを認め、その余の事実を否認する。横領の事実を否認する部分についての被控訴人の主張は別表(一)、(六)ないし(八)の被控訴人の主張の欄に記載したとおりである。なお、控訴人は、表が金員を横領している事実を知りながら池田にこれを秘して身元保証をさせたものであるから、同人の保証の範囲は昭和四一年九月二〇日以前に控訴人が蒙つた損害には及ばない。

(五)  被控訴人の再抗弁

1  池田は、控訴人が将来も引続き表を雇用するものと信じて身元保証契約を締結したものであるところ、控訴人は身元保証契約締結の直後である昭和四一年一〇月末日表を解雇したのであつて、右契約は要素に錯誤があり無効である。

2  表は控訴人に対し次のとおり弁償した。

(1) 昭和四〇年七月一〇日 八万円

(2) 同年一二月一四日 二〇万円

(3) 昭和四一年七月七日 四九万三八三〇円

(4) 同月一九日 三九万〇六三〇円

(5) 同年九月二九日 二〇万円

(6) 同年一二月一九日 三〇万円

(7) 同年(月日不詳) 二八万円

(8) 昭和四二年三月三〇日 五九万円

(六)  再抗弁に対する控訴人の答弁

再抗弁事実のうち、2の(6)ないし(8)の事実を認め、その余の事実を否認する。なお表からの弁償金は損害の元本に充当した。

三  証拠関係(省略)

理由

一  請求原因事実のうち、債権譲渡の事実を除くその余の事実は当事者間に争いがなく、原審証人池田久仁雄の証言及びこれによつて真正に成立したと認める甲第二号証によれば、同人が控訴人に対する本件貸金債権を昭和四二年四月二六日被控訴人に譲渡したことが認められ、右認定に反する証拠はない。

二  そこで抗弁のうち被控訴人の責任に関する主張について判断する。

(一)  池田久仁雄が昭和四一年九月二〇日控訴人との間で、表稔に関する身元保証契約を締結したことは当事者間に争いがない。

(二)  ところで控訴人は、右同日に池田が控訴人との間で、表がすでに横領によつて控訴人に対して負つていた損害賠償債務についても身元保証あるいは重畳的債務引受ないし連帯保証契約を締結した旨を主張しているので考えるに、成立に争いのない乙第一、第四号証、第五号証の一、原審証人池田久仁雄(一部)・同妻藤友之・同律子・同表稔(第一ないし三回、各一部)・山田京子の各証言、原審における控訴人本人尋問の結果によれば、次の事実を認めることができる。

1  控訴人は、表を含めた大部分の従業員からその採用時に身元保証契約書を徴しておらず、また徴していた分についても昭和三七年の火災によつて焼失してしまつていたところ、昭和四一年四月頃全従業員からこれを徴することとして、表に契約書用紙の作成、配布を命じた。

2  表は、書式集を参考に身元保証契約書用紙を作成してこれを全従業員に配布し、自己の分については、「池田」と刻した印章を購入したうえ、妻の父である池田に無断で同人名義の身元保証契約書(乙第四号証)を作成して、控訴人に提出した。

3  ところで、表は後記認定のとおり控訴人の金員を横領していたところ、同年八月頃控訴人に発見されて追及され、横領の事実を認めた。控訴人は、表の横領金額についての調査を進める一方、同年九月二〇日従業員妻藤友之を迎えに行かせ、身元保証人ということになつている池田を控訴人方に呼んで、横領総額は不明であるが表が横領した旨を告げるとともに前記身元保証契約書を示したところ、同人が右書面は自分が作成したものではないと言い、表も右書面は池田に無断で作成した旨を認めたので、改めて同人に身元保証契約書を作成してもらうこととした。その際、控訴人は、表を告訴する意向を示したが、池田が「表には家内も子供もあるので告訴するのは待つて欲しい。」と頼むので、同人が改めて身元保証契約を締結してくれるのであれば告訴しない旨を話し、池田はこれに応じてその場で偽造された前記契約書と同内容の身元保証契約書用紙に署名したうえ、表が先に購入した前記印章を押捺して身元保証契約書(乙第一号証)を作成し、外に池田の控訴人に対する債権額が一四〇万円であることを確認する旨の書面も作成してこれらを控訴人に提出した。

4  右契約書には、表が故意、過失により使用者に損害を蒙らせたときは直ちにこれを賠償する責に任ずる旨及び右契約の効力は使用開始の日から退職する日までとする旨の記載がある。

右認定に反する原審証人池田・同表(第一ないし三回)の各供述は、乙第一号証と同日付で池田の控訴人に対する債権額の確認書(乙第五号証の一)が存在する事実及び原審証人妻藤、原審における控訴人本人の各供述に照らして措信できず、他に右認定を覆えすに足りる証拠はない(なお、一般的には、すでに横領の事実が判明している被用者に関する身元保証契約を締結することは考え難いことといえようが、池田は表の妻の父であり、横領した表を告訴されて自分の娘及び孫にも累を及ぼす結果となることを極力避けたいとの気持から、控訴人の要求に応ずることも十分ありうることであつて、池田については、右一般論は妥当しない。)。

右認定事実によれば、控訴人・池田間において、すでに表の横領によつて控訴人が蒙つた損害についても保証する趣旨で本件身元保証契約が締結されたことは明らかである。なお、右事実によれば本件契約が債務引受ないし連帯保証契約の性質をも有することは否定できないけれども、もとより単純に債務引受ないし連帯保証契約が結ばれたものではないから身元保証に関する法律の適用があると解される。

なお、本件身元保証契約はその効力の存続期間について、前期のとおり「使用開始の日から退職する日まで」としているが、表の雇用契約について期間の定めがあつた旨の主張立証はないので、これが前記法律二条が予定しているような期間を定めたものと解することはできず、結局右契約は期間の定めをしなかつたことに帰し、前記法律一条により右契約は三年間その効力を有することとなる。そして、前記契約締結時の事情に照らすと、控訴人及び池田が右契約の存続期間の起算点を既往に遡らせる意思であり、むしろこのことが主眼であつたことは明らかであるから、契約の時から逆算して三年間に発生した控訴人の損害についてその効力を及ぼすものと解すべきである。

(三)  被控訴人は前記身元保証契約は、池田において控訴人が将来も引続き表を雇用するものと信じて締結したものであるところ、控訴人は締結直後である昭和四一年一〇月末日に表を解雇したのであるから、右契約は要素に錯誤があつて無効である旨主張し、原審証人池田の供述には右主張に沿う部分もあるが、前認定の本件身元保証契約締結に至る事情に照らすと、池田は、表が近い将来解雇されるであろうことを十分予想しうる状態であり、右契約締結に際しての池田の関心は専ら控訴人が表を告訴するか否かという点にあつたものということができるので、右供述部分はたやすく措信できず、他に被控訴人の主張を認めるに足りる証拠はない。

三  次に抗弁のうち表の横領に関する主張について判断する。

(一)  控訴人が昭和二九年一一月頃から表を雇用していたところ、同人が別表(一)ないし(七)のうち被控訴人の答弁欄に認める旨を記載した金員を横領したことは当事者間に争いがない。

そして、原審証人山田京子・原審及び当審証人律子・当審証人表の各証言並びに原審における控訴人本人尋問の結果によれば、控訴人が東亜自動車の名称で自動車修理販売業を営んでいること、表が女事務員一名を補助者として、控訴人の右営業にかかる会計を含めた事務全般を統括していたこと、女事務員が小額の金銭を取扱つて現金出納簿に記帳することもあつたが、原則として金銭は表が取扱い、同人の指示に基づいて女事務員が右帳簿に記帳する扱いであり、手形元帳等は表が記帳していたことが認められ、右認定を左右すべき証拠はない。

(二)  そこで横領の事実に争いのある部分について順次検討を加えることとする(なお、原審第二、三回)及び当審証人表・当審証人律子の各証言によれば、成立に争いのない甲第八号証は、律子が会計諸帳簿、銀行の預金口座等を調査して表が横領したのではないかと疑われるものを摘出し、これを基礎にして表と律子とが検討を加え(以下「立会計算」という。)、概ね、右側の書き込み部分を表が、左側の書き込み部分を律子が、それぞれ記載し、立会計算の結果表が横領したと考えられなかつた部分については、表あるいは律子がこれを横線で抹消したものであることが認められる。)。

1  別表(一)3及び同(八)4(2)について

控訴人は、表が昭和三九年一二月二二日に、争いのない五二〇三円のほかに当座預金へ預け入れないで一五万円を、また同月三〇日に控訴人から融資金として受け取った二〇万円のうち一五万円を預金したのみで、残額五万円をそれぞれ横領した旨主張するところ、成立に争いのない乙第一六号証の一、三、四、当審証人表の証言及びこれによつて真正に成立したと認める甲第九号証(表作成の書面)によれば、表が同月二二日に現金出納簿に「扶桑銀行預入れ」と記載して二五万五二〇三円を引出し、同日扶桑相互銀行(以下単に「銀行」という。)の控訴人の口座に一〇万円しか預け入れなかつたが、同月三〇日さらに銀行の右口座に一五万円を預け入れたことが認められる。

ところで、乙第一六号証の四の同月三〇日の摘要欄には「主人より」と記載されており、当審証人律子の証言によつて真正に成立したと認める同第二一号証(律子作成の説明書)には、「控訴人が営業外の自分の金を年末資金として一二月三〇日に二〇万円表に渡したが、表はそのうち五万円を横領し、一五万円を当座預金へ入金し、これが乙第一六号証の四の一二月三〇日の一五万円の入金の記載である。同号証の二の昭和四〇年一月二九日に控訴人へ二〇万円を支払つた旨の記載は、右融資金を控訴人に返還したことを示すものである。」旨記載されており、当審証人律子もこれと同旨の供述をするが、乙第一六号証の四の摘要欄の前記記載は、銀行の台帳にはもとより無く、律子が新たに記入したものであることは同人自身が当審において供述するところであつて決め手とはならないし、控訴人が表に二〇万円を渡したとの客観的証拠もないこと、前記甲第九号証には、「昭和四〇年一月二九日の控訴人に対する二〇万円の支出は、融資金の返還ではなく、同人から要求されて支出したものである。」旨記載されており、これを無下に排斥することもできないことなどに照らすと、前記乙第二一号証の記載及び律子の供述を直ちに措信することはできず、他に右認定を覆えして控訴人の主張事実を認めるに足りる証拠はない。

よつて、控訴人の損害は争いのない五二〇三円に止まるというべきである。

2  別表(一)5及び同(六)36について

控訴人は、表が昭和四〇年五月一〇日に一五万円を当座預金に預け入れないで横領し、また、同月一一日高浜秀蔵から自動車販売代金二二万円を受領してこれをも横領した旨主張するところ、前記甲第九号証、成立に争いのない乙第一六号証の五〇ないし五二、五六、五七、原審(第二回)証人表の証言によれば、表が同月一〇日現金出納簿に「扶桑銀行預入れ」と記載して二八万五〇〇〇円を引出したこと、同月八日に現金一五万円を、同月一〇日に一三万五〇〇〇円をそれぞれ銀行の控訴人の口座に預け入れたこと、同月八日高浜秀蔵と控訴人との間で代金を二二万円とする自動車の売買予約が締結されたことが認められる。そして、同月八日に現金一五万円を預け入れながら、現金出納簿にはそれより後の同月一〇日に右金員を含めた金員について「預入れ」と記載するのはいかにも不自然であること、前記乙第二一号証、当審証人律子の証言とによれば、同月八日預け入れの一五万円は、高浜からその日に受領した自動車販売代金二二万円の一部であり、残額七万円は表がその日に横領したものと認められ、また、表は同月一〇日に引出した二八万五〇〇〇円のうち一三万五〇〇〇円を預け入れただけで、残額一五万円をも横領したことが推認される。右認定に反する甲第九号証の記載及び原審(第二回)証人表の供述は措信しがたく、他に右認定を覆えすに足りる証拠はない。そうすると表の横領額は合計二二万円となる。

3  別表(一)9について

控訴人は、表が昭和四〇年八月一六日に、争いのない一四万五三二六円のほかに五万四六七四円を横領した旨主張するところ、前記甲第九号証、成立に争いのない乙第一六号証の七、九によれば、表が右同日現金出納簿に「扶桑銀行預入れ」と記載して三八万円を引出し、同日銀行の控訴人の口座に一八万円を預け入れただけであることが認められる。

被控訴人は、表が同年九月一六日に鳥取県信用組合倉吉支店に対し、控訴人の借入金の返済分として五万円と、同年八月一六日から同年九月一五日までの利息分として四六七四円を支払つた旨主張し、前記甲第九号証には右主張に沿う記載があり、原審(第二回)証人表も同旨の供述をするが、成立に争いのない乙第一六号証の八により、右組合に対して同年九月一五日に、四五万円に対する右同日から同年一〇月一五日までの利息として四六七四円の支払がなされたと認められることに照らすと、右記載及び供述を措信することはできない。

他にこの点についての特段の証拠のない本件では、右に認定した事実から、控訴人主張のとおりの金額を表が横領したものと認めるのが相当である。

4  別表(一)12について

控訴人は、表が昭和四〇年一一月二〇日に、争いのない三万五一〇〇円のほかに四九〇〇円を横領した旨主張するところ、前記乙第二一号証、成立に争いのない同第一六号証の一〇、一一及び当審証人律子の証言によれば、表が右同日に現金出納簿に「扶桑銀行預入れ」と記載して四万円を引出したが、これを直ちに銀行の控訴人の口座に預け入れなかつたこと、表が同月二九日に四九〇〇円の約束手形を右口座に入金したことが認められる。前記甲第九号証には、右四万円のうち四九〇〇円は小切手であつて、表はこれを同月二九日に預け入れたものであり、乙第一六号証の一一に「MS」と記載してあるのは「CP」の写し間違いである旨の記載があり、原審(第二回)証人表も右記載に沿う供述をしているが、前記証拠に照らしていずれもたやすく措信しがたい。

右の事実によれば、四九〇〇円の入金は同月二〇日の四万円の引出しとは無関係であり、結局、表は前記争いのない金額のほかに四九〇〇円を右同日に横領したものと推認するのが相当であり、前記甲第八号証により立会計算の際律子が一旦横領金額が三万五一〇〇円であると認めたとうかがえることによつても右認定を覆えすに足りず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

5  別表(一)14について

控訴人は、表が昭和四〇年一二月一〇日に、争いのない五〇〇〇円のほかに四万円を横領した旨主張するところ、前記乙第二一号証、成立に争いのない同第一六号証の一二、一三及び当審証人律子の証言によれば、表は右同日に現金出納簿に「扶桑銀行預入れ」と記載して六万〇三八〇円を引出し、即日一万五三八〇円を銀行の控訴人の口座に預け入れたこと、同月一三日井中組振出の四万円の約束手形を右口座に入金したことが認められる。前記甲第九号証には、右四万円の入金は小切手であつて乙第一六号証の一二の「MS」との記載は写し間違いである旨の記載があるが、前記証拠に照らしてたやすく措信しがたい。

右の事実によれば、前記四万円の入金は同月一〇日の六万〇三八〇円の引出しとは無関係であり、表は前記争いのない金額のほか右同日に四万円を横領したものと推認される。前記甲第八号証によれば、立会計算の際律子が一旦横領金額が五〇〇〇円であることを認めたことがうかがえるが、この事実だけで右認定を覆えすことはできず、他に右認定を左右すべき証拠はない。

6  別表(一)18、19及び同(八)4(3)について

控訴人は、表が昭和四〇年一二月二七日及び同月三〇日に合わせて、争いのない二万円のほかに当座預金に預け入れないで一九万円を、同月三一日に控訴人から融資金として受け取つた二〇万円のうち一九万円を預金したのみで残額一万円をそれぞれ横領した旨主張する。

前記甲第九号証、成立に争いのない乙第一六号証の一六、一八、五三によれば、表が現金出納簿に「扶桑銀行預入れ」と記載して、同月二七日に一〇万円、同月三〇日に二一万一〇〇〇円をそれぞれ引出し、同月三〇日に銀行の控訴人の口座へ一〇万一〇〇〇円しか預け入れなかつたが、昭和四一年一月六日に一九万円を預け入れたことが認められるところ、前記乙第二一号証には「控訴人が昭和四〇年一二月三〇日に年末の一時融資金として二〇万円を表に渡したが、同人はすぐには入金せず、翌年一月六日に内一万円を横領し、残金一九万円を預け入れたものである。この融資金は同月一七日に一六万円を返してもらつた。」旨の記載があり、当審証人律子もこれに沿う供述をしている。しかしながら、乙第一六号証の一六の一月六日の摘要欄の「主人20万」との記載は1において述べたのと同様の理由により控訴人が表に二〇万円を渡したことの決め手とはならないし、同号証の五四の同月一七日の控訴人に対する一六万円の支出には「福島分」と記載してあつて控訴人に対する返金とは直ちに考え難く、他にこれを認めるべき客観的証拠もないことと、前記甲第八号証によれば、立会計算の際律子は横領金額が表主張のとおりであることを承認していたと認められること及び前記甲第九号証の記載に照らすと、前記記載及び供述はにわかに措信しがたいものというほかなく、他に右認定を覆えして控訴人の主張事実を認めるに足りる証拠はない。

結局、控訴人の主張は採用できない。

7  別表(二)9について

控訴人は、表が昭和四一年五月二五日に一万五〇〇〇円を横領した旨主張するが、この事実を認めるに足りる証拠はない。

8  別表(六)1及び4について

控訴人は、表が下村仁太郎から入金された自動車販売代金を昭和三八年七月一七日に二三万九四六八円、昭和三九年六月一〇日に一万円それぞれ横領した旨主張するが、前者については本件身元保証契約の効力の存続期間外であるのみならず、右両事実を認めるに足りる証拠はない。

9  別表(六)9、12及び19について

控訴人は、表が斉江亮一から入金された自動車販売代金を、昭和三九年八月一五日に五〇〇〇円、同年九月一五日に二万円、同年一〇月一五日に二万〇四九九円それぞれ横領した旨主張する。

前記乙第二一号証には、「斉江亮一に対する売掛帳によれば、同人振出し不渡手形の合計は一六万五四九九円であり、西山三蔵からの入金の合計は一二万円であつて、四万五四九九円が未済となつているにも拘らず、表は〈済〉と記載しているのであるから、右四万五四九九円は同人が横領したものである。」旨記載されている。一方、前記甲第九号証には、「現金出納簿で二万五〇〇〇円と二万〇四九九円の入金が確認されたので、高田律子が〈済〉の字を書いた。」旨の記載があり、原審(第二回)及び当審証人表はこれに沿う供述をしている。ところで、当審証人表が自ら書いたものであると供述する甲第九号証の〈済〉の字体と乙第一六号証の二二の〈済〉の字体とがよく似ていることからして、後者も表が書いたのではないかとの疑いが強いが、仮にそうとしても、同人がこれをいつ書いたかについては確たる証拠がなく、立会計算の際に、斉江に対する販売代金に関しては検討が済んだとの意味でこれを書いた可能性も多分にあるというべく、また、控訴人保管の現金出納簿が部分的にしか提出されていない本件では、甲第九号証の前記記載が全く虚偽であるともいうことができない。してみると、控訴人の主張に沿う前記証拠だけでは未だこれを認めるに足りないものというほかなく、他にこれを認めるに足りる証拠はない。

10  別表(六)11について

控訴人は、表が昭和三九年九月九日に前田幸恵から入金された自動車販売代金一万円を横領した旨主張し、成立に争いのない乙第一六号証の二〇、二一、五八によれば、前田に対する売掛帳には同人から右同日に一万円の入金があつた旨表によつて記載されているのに、現金出納簿にはその旨の記載がないことが認められ、この事実によれば、表が右同日前田によつて支払われた一万円を横領したものと推認される。前記甲第九号証には「セールスマンの租田某から、前田と売買契約するにあたり値段が折合わず、『後で値引するから手形を書いて下さい。一万円の手形はお返ししますから。』と約束した旨を聞かされ、現金の入金があつたように処理して手形を租田に返した。」旨記載され、当審証人表も同趣旨の供述をするが、一万円の手形を返す約束をするくらいなら当初から値引をすればよいはずであつて、租田が話したという内容がいかにも不自然であることと、前記甲第八号証によれば、表が立会計算の際に本件一万円の横領を自認していたと認められることに照らすと、前記記載及び供述はたやすく措信することができず、他に右認定を左右すべき証拠はない。

11  別表(六)13及び14について

控訴人は、表が昭和三九年九月一七日に、野田千代春から受領した二万三一一九円及び相見良弘から受領した三万五〇〇〇円をそれぞれ横領した旨主張するが、この事実を認めるに足りる証拠はない。

12  別表(六)17について

控訴人は、表が昭和三九年一〇月一三日に北田義夫から受領した一万五〇〇〇円を横領した旨主張するところ、前記甲第九号証、乙第二一号証、成立に争いのない乙第一六号証の三二、四七、四八によれば、北田振出の額面一万五〇〇〇円の約束手形が同月一〇日不渡りになつたが、表が同月一三日に北田から現金で一万五〇〇〇円を受けとり、これを現金出納簿に記載しなかつたことが認められる。しかしながら、右乙第一六号証の四七によれば、右約束手形は昭和三八年一二月二八日に大阪マツダ株式会社に交付されたことが認められるのであつて、前記甲第九号証の「この金は、不渡手形の所有者で、取引先の大阪マツダ(株)に支払うため別口で保管して置き、一〇月二六日同会社に支払いました。」との記載内容も無下に排斥しがたいし、前記甲第八号証によれば律子も立会計算の際に右記載と同旨の表の説明を了解したことが認められるのであつて、右認定事実だけから表が右金員を横領したものと推認することはできず、他にこの事実を認めるに足りる証拠はない。

13  別表(六)18について

控訴人は、表が昭和三九年一〇月一三日に福本利市から受領した自動車販売代金一万五〇〇〇円を横領した旨主張するが、この事実を認めるに足りる証拠はない。

14  別表(六)20について

控訴人は、表が昭和三九年一〇月二六日に西村新一から受領した自動車販売代金三万五〇〇〇円を横領した旨主張するところ、前記甲第九号証、乙第一六号証の二八、第二一号証、成立に争いのない同第一六号証の二四、二七によれば、西村が振出した金額三万五〇〇〇円の約束手形が同年九月三〇日に不渡りとなつたが、同人が同年一〇月二六日に表に現金三万五〇〇〇円を渡し、表がこれを現金出納簿に記載しなかつたことが認められる。しかしながら、右乙第一六号証の二八の該当欄には、「10/26現金入マツダへ渡し」と記載されているのであつて、前記甲第九号証の「この金は、別口で保管して置き、一〇月二六日大阪マツダ(株)に支払いました。」との記載内容を一概に排斥できないし、前記甲第八号証によれば律子が立会計算の際これと同旨の表の説明を了解したと認められるのであつて、右認定事実だけで表が右金員を横領したものと推認することはできず、他に右事実を認めるに足りる証拠はない。

15  別表(六)22について

控訴人は、表が昭和三九年一一月二〇日に若松富から受領した二九万円を横領した旨主張するところ、前記甲第九号証、乙第二一号証、成立に争いのない乙第一六号証の二九、三〇、弁論の全趣旨により真正に成立したと認める同第一〇号証によれば、表が同月二三日に若松富から自動車代金として二九万円を受領し、一旦その旨を現金出納簿に記載したが、同月二七日右帳簿に「信用組合預入れ」と記載したうえ、これに他の金員を併せた三二万円を引出して鳥取県信用組合に控訴人の義弟である吉田元紀名義の普通預金口座を新規に設けてこれに預け入れたことが認められる。しかしながら、右口座の名義人が控訴人でないこと、控訴人が吉田名義で右組合と取引していたというような事情を認めるべき証拠がないこと、表が新規に右口座を設けるに至つた事情について何ら説明していないこと、右乙第一〇号証(吉田元紀名義の普通預金元帳)の現金の出入と控訴人の現金出納簿のそれとを対照してみるに、前者の昭和四〇年一月二九日の一二万五〇〇〇円の預け入れ、同年三月五日の三八万円の払戻しに対応する記載がいずれも後者にはないこと(成立に争いのない乙第一六号証の二、三一。なお、その他については対照すべき現金出納簿が証拠として提出されていない。)などに照らすと、右吉田名義の口座が控訴人のために開設されたものであるとは認められず、結局、前記認定の事実から表は控訴人主張の二九万円を昭和三九年一一月二七日に横領したものと推認すべく、他に右認定を覆えすに足りる証拠はない。

16  別表(六)23について

控訴人は、表が昭和四〇年一月二〇日に若松富から自動車代金として受領した五一万九〇〇〇円を横領した旨主張するところ、前記乙第一〇号証によれば、表が同月二五日に四七万五〇〇〇円を鳥取県信用組合に預け入れたことが認められること、右金員の出所が明らかでないこと、すでに認定した事実により表が金銭に窮していたものと推認されること及び弁論の全趣旨によれば、表が同月二〇日に若松から下取車の代金として一〇万円を控除した自動車販売代金四一万九〇〇〇円を横領したものと推認される。もつとも前記甲第八号証によれば、律子が立会計算の際、右金員を控訴人が受領した旨の説明を納得したことが認められるが、右事実だけでは右認定を覆えすに足りず、他に右認定を覆えすに足りる証拠はない。

17  別表(六)25について

控訴人は、表が昭和四〇年二月一六日に生田実から自動車販売代金として受領した七万円を横領した旨主張するが、この事実を認めるに足りる証拠はない。

18  別表(六)27について

控訴人は、表が昭和四〇年三月一日に牧田寿男から受領した自動車販売代金三万円を横領した旨主張するところ、前記甲第九号証、乙第一六号証の三三、第二一号証、成立に争いのない同第一六号証の三一によれば、控訴人が同年三月に牧田へ自動車を二三万円で売却する旨の予約をしたこと、表が同月六日の現金出納簿に同人から右代金として二〇万円の入金があつた旨の記載をしたが、残額三万円については右帳簿に何らの記載もなされていないことが認められる。ところで前記甲第九号証には残額三万円は下取車の価額である旨の記載があるが、前記乙第二一号証の記載に照らしてたやすく措信しがたい。右の事実によれば、表は同年三月六日に牧田から二三万円を受領し、内三万円を横領したものと推認され、前記甲第八号証によつて認められるところの、立会計算の際律子が表の説明を一旦納得した事実によつても右認定を覆えすには足りず、他に右認定を左右すべき証拠はない。

19  別表(六)28及び29について

控訴人は、表が自動車販売代金として、鳥飼浩から昭和四〇年三月一日に三万円を、野崎純弘から同月九日に五万円をそれぞれ受領してこれを横領した旨主張するが、この事実を認めるに足りる証拠はない。

20  別表(六)30について

控訴人は、表が昭和四〇年三月一二日に密山任相から自動車販売代金として受領した五万円を横領した旨主張するところ、前記甲第九号証、成立に争いのない乙第一六号証の三四、三五によれば、表が右同日密山から五万円を受領したが、これを現金出納簿に記載しなかつたことが認められる。しかしながら、前記甲第八号証によれば立会計算の際に、律子が表の横領していないとの説明に納得していたと認められること及び右甲第九号証の記載内容に照らすと、右認定事実だけで表が右金員を横領したものと推認することはできず、他に右事実を認めるに足りる証拠はない。

21  別表(六)32について、

控訴人は、表が昭和四〇年三月三一日に谷畑邦雄から自動車販売代金として受領した一万二三九〇円を横領した旨主張するところ、成立に争いのない乙第一六号証の三六(谷畑に対する売掛帳)には、谷畑が振出した額面・一万二三九〇円、満期・同年三月三一日の約束手形を同年二月二五日に大阪マツダ株式会社へ交付したとの趣旨の記載及び同年三月三一日に谷畑から一万二三九〇円の入金があつた旨の記載があるのに、前記甲第八号証により立会計算の際に表が右手形は大阪マツダへ行つておらず、入金のあつた一万二三九〇円を横領したと自認していたことが認められることによれば、控訴人主張の右事実を十分認めることができる。

前記甲第九号証には、「一万二三九〇円の手形については、セールスマン租田某が谷畑に対し値引することを約束していたので、やむなく乙第一六号証の三六に記載したように処理したものであつて、谷畑からの入金もなかつたし、勿論表が横領した事実もない。」旨の記載があるが、前記の証拠に照らして措信しがたく、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

22  別表(六)33について

控訴人は、表が昭和四〇年四月六日に荒木英明から自動車販売代金として受領した一〇万円を横領した旨主張するが、この事実を認めるに足りる証拠はない。

23  別表(六)34について

控訴人は、表が昭和四〇年四月九日に藤岡慶から自動車販売代金として受領した二八万円を横領した旨主張するところ、前記乙第一六号証の六によれば、控訴人が藤岡に自動車を二八万円で売渡す旨の売買予約をしたことが、また、前記乙第二一号証及び弁論の全趣旨によれば、その後間もなく右自動車の売買契約が締結されて自動車が藤岡に引渡され、同人から右代金の支払がなされたが、帳簿上右代金の入金の扱いがなされていないことがそれぞれ認められる。前記甲第九号証には「この売買は売つた車の価格より下取した車の価格の方が高かつたので、売買というより車の交換といつた方が良い。」旨の記載があり、原審(第二回)及び当審証人表もこれと同旨の供述をしているが、右記載ないし供述内容自体極めて不自然であり、右乙第二一号証の記載に照らして措信することができず、他に右認定を覆えすに足りる証拠はない。

右の事実によれば、表は同月九日頃には二八万円を横領したものと推認される。

24  別表(六)37について

控訴人は、表が昭和四〇年五月二九日に小椋裕から受領した自動車販売代金一万円を横領した旨主張するところ、前記乙第一六号証の三八、成立に争いのない同第一六号証の五、三七によれば、小椋に対する売掛帳には同人から右同日に一万円の入金(振替預金)があつた旨記載されていること、同日から同月三一日までの現金出納簿にはこの記載がないことが認められる。しかしながら、右入金が振替預金によつてなされたこと及び前記甲第八号証によれば、立会計算の際、律子が右金員を表が横領していないことを了解したと認められることに照らすと、右の事実だけから表がこれを横領したものと推認することはできないし、他にこの事実を認めるに足りる証拠もないので、控訴人の主張は採用することができない。

25  別表(六)42及び47について

控訴人は、表が自動車販売代金として、昭和四〇年一〇月二日に谷口幸一から四万七〇〇〇円を、昭和四一年四月一一日に山田一幸から一六万円をそれぞれ受領して横領した旨主張するが、前記甲第八号証だけではこの事実を認めるに足らず、他に右事実を認めるに足りる証拠はない。

26  別表(六)49及び同(八)4(4)について

控訴人は、表が争いのない八万一七九七円のほか、昭和四一年四月二一日に自動車販売代金として井中組から受領した一八万円を、また、同月二〇日に控訴人から融資金として受け取つた二〇万円のうち一八万円を預金したのみで残額二万円をそれぞれ横領した旨主張するところ、前記甲第九号証、成立に争いのない乙第一六号証の三九、四〇によれば、同月二〇日に井中組から山陰合同銀行西町支店に二六万一七九七円が入金されたこと、同日銀行の控訴人の口座へ一八万円が預け入れられたことが認められる。ところで、前記乙第二一号証には、右一八万円の預金は控訴人が表に渡した金であつて井中組から入金されたものの一部ではない旨の記載があり、前記乙第一六号証の四〇の摘要欄には「主人より」と記載してあるが、前記1において述べたのと同様の理由により乙第一六号証の四〇の右記載は控訴人が表に融資金を渡したことの決め手とはならないし、この点について他に客観的証拠がないことと、前記甲第八号証により立会計算の際律子が横領額は八万一七九七円であることを了承したものと認められること及び前記甲第九号証の記載並びに原審(第二回)証人表の供述に照らすと、乙第二一号証の前記記載はたやすく措信しがたく、他に控訴人の主張事実を認めるに足りる証拠はない。

27  別表(七)1について

控訴人は、表が昭和三九年六月二六日に原田組から自動車修理代として受領した一万一一二二円を横領した旨主張するところ、前記乙第二一号証、成立に争いのない同第一六号証の四一によれば、表が右同日に原田組から右金額の約束手形を受領したが、帳簿上右手形が決済された旨の記載がなされていないことが認められる。しかしながら、前記甲第九号証の記載に照らすと、右事実だけで表が右手形金を受領して横領したものと推認することはできず、前記甲第八号証もこれを認めるに足らず、他にこの事実を認めるに足りる証拠はない。

28  別表(七)3について

控訴人は、表が昭和三九年八月七日に大前春一から自動車修理代金として受領した二七〇〇円を横領した旨主張するが、この事実を認めるに足りる証拠はない。

29  別表(七)16について

控訴人は、表が昭和四〇年七月一三日に大東富夫から自動車修理代金として受領した三九〇六円を横領した旨主張するところ、前記甲第八号証及び成立に争いのない乙第一六号証の四二並びに弁論の全趣旨によれば、右同日に大東から二万〇九〇六円の約束手形が交付され、同月二六日に五〇〇〇円、同年八月一〇日に五〇〇〇円、同月三一日に三〇〇〇円、同年九月二八日に四〇〇〇円の各入金がなされてその旨の現金出納簿上の処理がなされたが、残額三九〇六円については何らの処理もなされないまま放置されていたこと、立会計算の際に表が右三九〇六円を横領したと自認したことを認めることができる。そうすると、大東の右金員支払状況からして、遅くとも同年一〇月三一日までには表が大東から三九〇六円の支払を受けてこれを横領したものと推認するのが相当であり、他に右認定を覆えすに足りる証拠はない。

30  別表(七)19について

控訴人は、表が昭和四〇年一二月二六日に岸田敏広から自動車修理代として受領した六〇〇〇円を横領した旨主張するところ、前記乙第二一号証、成立に争いのない乙第一六号証の四三、四五によれば、岸田に対する売掛帳には右同日に現金六〇〇〇円の入金があつた旨記載されているのに現金出納簿にはこの記載がないこと、前記甲第八号証によれば、立会計算の際表が右六〇〇〇円の横領の事実を自認していたことをそれぞれ認めることができるのであつて、この事実によれば表が控訴人主張のとおり横領したことは明らかである。前記甲第九号証には右六〇〇〇円が値引したものである理由を詳細に記載してあるが、前記各証拠に照らして措信しがたく(なお乙第一六号証の四三には右同日に「売上値引」四五円との記載がなされている。)、他に右認定を覆えすに足りる証拠はない。

31  別表(八)1について

控訴人は、表が昭和三九年一〇月に吉田敏一から火災の弁償金として受領した二五万円を横領した旨主張するところ、乙第一八号証(吉田作成名義の昭和五一年九月一五日付書面)には「東亜自動車の火災弁償金二五万円を昭和四〇年春頃に東亜自動車の事務所で男の事務員に渡し、領収証をその人に書いて貰いました。」との記載があり、前記乙第二一号証には「昭和三九年六月に少年の放火により事務所が火災になり、同年一〇月に少年の親から弁償金として二五万円を受け取つたが、表がこれを横領した(乙第一八号証)。」との記載がある。しかしながら、乙第一八号証は一〇年以上も後になつて作成されたものであり、乙第二一号証はこれを前提とし、しかも受領の日が右乙第一八号証と異なるものであつて、前記甲第九号証及び当審証人表の供述に照らすとたやすく措信しがたいものというほかなく、他にこの事実を認めるに足りる証拠はない。

32  別表(八)2について

控訴人は、表が昭和四〇年八月一六日に受取利息一万九九二〇円を支払利息として記帳し、三万九八四〇円を横領した旨主張するところ、前記乙第一六号証の七(現金出納簿)には、右同日の欄に「定期担保の利息」として四万三二〇三円の支出と、「両建定期一〇〇万分の利息」として一万九九二〇円の支出とが記載されている。前記乙第二一号証には「定期担保の利息を支払い、両建定期預金の利息を受け取つた。」旨の記載があるが、信用組合にした定期預金の利息だけを受け取ることは通常考えられないところであるし、前記甲第九号証には「定期担保による借入とは別に両建定期による借入があつた。」旨の記載があることに照らすと、乙第二一号証の前記記載を直ちに措信することはできず、他に控訴人の前記主張事実を認めるに足りる証拠はない。

33  別表(八)3について

控訴人は、表が昭和四〇年一〇月二六日に野田千代春からの借入金六〇万円を受領しながらこれを横領した旨主張するところ、乙第二〇号証(野田作成名義の昭和五一年九月二日付書面)には「六〇万円は昭和四〇年一〇月末日に東亜の事務所で表事務員に渡し年末に金利を貰い、元金を昭和四三年末に返して貰つた。」旨の記載があるが、右書証は一〇年以上も経つて、しかも当審になつて突如として作成提出されたものであつて、少なくとも右のうち六〇万円を表に渡したとの部分は、他にこれを裏づける客観的証拠のない以上(成立に争いのない乙第一六号証の四四(現金出納簿)に昭和四〇年一二月三一日に野田千代春に利息として一万五〇〇〇円支払つた旨の記載があるが、これだけでは補強証拠として十分でない。)、直ちに措信することができず、他に控訴人の右主張事実を認めるに足りる証拠はない。

34  別表(八)4(1)について

控訴人は、表が昭和三九年一〇月一九日に控訴人から融資金として受領した一二万円を横領した旨主張するところ、前記乙第一六号証の三〇、三二、成立に争いのない同第一六号証の四九によれば、現金出納簿の昭和三九年一一月二七日の欄に「事業主、高田明、10/19借入分返し」として一二万円を支出した旨の記載があるが、同年一〇月一九日の欄には一二万円を借入れた旨の記載がないことが認められる。しかしながら、前記甲第九号証及び乙第一六号証の四九によれば、同年一〇月一九日女事務員によつて原自動車宛に郵便為替で送金がなされたことが認められるので、右一二万円は女事務員が控訴人から受領し、入金の記載をしないまま送金してしまつた可能性を否定できず、前記認定事実だけで表が横領したものということはできないし、他にこれを認めるに足りる証拠はない。

(三)以上に述べたところによれば、表の横領額は争いのない一五四万三六六八円と右に認定した一三七万〇八七〇円との合計二九一万四五三八円となる。

四  次に被控訴人の弁償の主張について考えるに、表が控訴人に対し昭和四一年一二月一九日に三〇万円、昭和四一年(月日不詳)に二八万円、昭和四二年三月三〇日に五九万円を弁償したことは当事者間に争いがなく、成立に争いのない甲第四号証、乙第三号証、原審(第二、三回)証人表の証言、原審における控訴人本人尋問の結果によれば、表が控訴人に対し昭和四〇年七月一〇日に八万円、同年一二月一四日に二〇万円、昭和四一年七月七日に四九万三八三〇円、同月一九日に三九万〇六三〇円、同年九月二九日に二〇万円を弁償したことが認められ、右認定を覆えすに足りる証拠はない。

そして、表からの弁償金を損害の元本に充当したことは控訴人の自認するところであるから、昭和四二年三月三〇日の表の最終の弁償により、未だ弁償されない控訴人の損害は、元本が三八万〇〇七八円、遅延損害金が二〇万円余りとなる(なお、弁償月日が不明の昭和四一年の二八万円については、同年一二月三一日に弁償されたものとみるべきである。)。

五  そこで身元保証人である池田の責任限度について考えるに、前記二において認定したとおり、本件身元保証契約が表の雇用から一〇年以上も経過した後になつて、しかも表による横領の事実が控訴人に判明してから締結されたものであること、池田が表との身分関係上、表の横領について告訴してもらいたくないとの切羽詰つた気持から、やむなく画一的な契約書用紙に記載された文言をそのまま承諾する形で署名したものであること、一方、池田が右契約当時その額はともかくとして、表が横領した事実を告げられていたことなどのほか、原審(第二、三回)証人表・同律子の各証言及び原審における控訴人本人尋問の結果により、控訴人がその経理を表に任せきりにしていて適切な監督を怠つていたことが認められ、このことが本件横領事故発生の一つの原因であり、かつ、その損害を拡大させた重大な事由であると推認されること及び表が結局捜査官から横領の事実について取調べを受けるに至つたことが認められること、その他表が控訴人の損害元本の大部分を弁償したことなどの諸事情を総合勘案すると、後記控訴人が期限の利益を放棄した時点における控訴人の遅延損害金を含めた未払損害額のうち二〇万円をもつて池田の責任限度とするのが相当である。

六  控訴人が被控訴人に対し昭和四二年五月末日までの利息を支払つていること、同月一日頃到達の書面で、本件貸金債務と池田に対する身元保証契約上の債権とを対当額で相殺し、右債務の期限の利益を放棄する時期を同年四月二〇日以降とする旨の意思表示をしたことは当事者間に争いがないところ、すでに述べたところによれば、池田の控訴人に対する債務は同年四月一九日現在で二〇万円であるので、右相殺により控訴人の被控訴人に対する債務の元本は一二〇万円となる。

七  よつて、被控訴人の控訴人に対する本訴請求は右金員とこれに対する弁済期の後である同年六月一日から支払ずみまで約定利率相当の年一割二分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから認容し、その余を失当として棄却すべきであるから、これと異なる原判決を右のとおりに変更し、訴訟費用の負担につき民訴法九六条、九二条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

別紙

横領金額一覧表

(一)現金を当座預金に預け入れないで着服したもの

〈省略〉

(二)現金不足分

〈省略〉

(三)立替金の返戻金を横領したもの

〈省略〉

(四)現金出納簿に「表え貸付」と記載して横領したもの

〈省略〉

(五)山根毅誉繁に対する自動車販売代金横領分

〈省略〉

(六)自動車販売代金横領分

〈省略〉

〈省略〉

〈省略〉

(七)自動車修理代金横領分

〈省略〉

(八)新たに発見した横領金

〈省略〉

(番号4の明細)

(1) 三九・一〇・一九 一二〇、〇〇〇

(2) 〃 一二・三〇 五〇、〇〇〇(二〇〇、〇〇〇円中一五〇、〇〇〇円を預金した残額)

(3) 四〇・一二・三一 一〇、〇〇〇(二〇〇、〇〇〇円中一九〇、〇〇〇円を預金した残額)

(4) 四一・四・二〇 二〇、〇〇〇(二〇〇、〇〇〇円中一八〇、〇〇〇円を預金した残額)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例